MRの知識力アップ ゼリー剤に込められた技術とは

ここがポイント

ゼリー製剤は「服薬コンプライアンスの改善」、つまり患者にとって薬を飲むことを苦痛にしない薬物療法の有効な手段とされています。

 

高カリウム血症という病気があります。カリウムはあらゆる生物の細胞の中に含まれ、酵素に結合したりイオン強度を調節したりすることによって、細胞の代謝、酵素活性、神経・筋肉の興奮や収縮などの働きを司る重要な物質です。

 

カリウムは果物や生野菜などの細胞性の食品から取り込まれます。不要になったカリウムの排泄経路は90%が尿で残りが糞便です。しかし、尿を作り出す腎臓の機能に支障が生じている透析患者では、カリウムの排泄ができずに体内で蓄積してしまうため、血液中のカリウム濃度が高くなり高カリウム血症になってしまいます。

 

最近では、災害時のクラッシュシンドローム(挫滅症候群)により身体に現れる病的変化の一つとして発症する高カリウム血症がよく知られるようになってきました。

 

透析患者では先述したとおりカリウム排泄能力が低下しているため、透析と透析の間隔が開くと多くのケースで高カリウム血症の症状を呈します。筋肉の興奮に関わるカリウム濃度の異常から手足の重い感じや脱力感が出て、センサーの役割を担うタンパク質が正常に機能するために必要なカリウム濃度の異変から知覚や味覚などに対して異常・違和感を自覚するようになります。そしてあまりにカリウム濃度が高くなると筋肉のコントロールができなくなり、不整脈、徐脈、心停止などを起こす可能性が出てくるので、命に関わります。

 

体内のカリウム濃度を減らすには患者に水を飲ませたり、輸液を点滴したりすると効果がありますが、薬物療法としてはカリウム濃度を下げる作用を持つ薬の利用があります。その代表に、消化管の粘膜細胞からカリウムを引き抜きながら糞便と共に排泄させる「イオン交換樹脂」と呼ばれる物質があります。

 

ところが、イオン交換樹脂そのものは、樹脂、という名称から想像されるとおり、噛み砕けない明太子のつぶつぶのようなザラザラしたもので、水にも溶けません。それを1日に何十グラムも飲まないといけないので非常に服用しにくく、患者の生活の質の低下につながっていました。しかもあまりに飲みにくい薬なので、患者が勝手に服用をやめてしまって症状の改善の障害となることもありました。

 

医療機関ではこの点を問題視し、イオン交換樹脂をより服用しやすいものにする努力が行われました。イオン交換樹脂をババロアやアイスクリームに混ぜ込んだり、イオン交換樹脂が熱に強いことを利用してクッキーに練り込んだり、といったことがみられました。また、服用患者に年配者が多いことから、手間暇かけて羊羹に仕上げたり、イオン交換樹脂入りのくずもちを作ったりなども試みられました。

 

これらの試みの多くは比較的うまくいきましたが、製作の手間、手作業で加工した医薬品含有食品を患者に食べさせることにおける衛生上の問題、糖分などの過剰摂取になってしまう問題などがあり、試みの域を出ることはできませんでした。そのため製剤の段階、つまり製薬メーカーから出荷される段階で服用しやすいイオン交換樹脂の開発が求められるようになります。

 

その結果、余分な栄養を含まず、薬の効果に影響を与えず、腐ったり溶けたりせずに保管でき、しかも安価なものとしてゼリー製剤が考えられました。これについては、厚生労働省による老人医療に関する患者からの聞き取り調査で、薬をゼリーやプリンとして摂取したいというニーズが多かったこともゼリー製剤を後押しする結果となりました。

 

実際にゼリー製剤を作って、高齢の高カリウム血症患者に従来のザラザラしたイオン交換樹脂と飲み比べてもらったところ、ゼリーの方が評判がよく、これまでザラザラを嫌って服用を勝手に中断していた患者もゼリーならば医師の指示通りに服用を続けたことから、この製剤は非常に有効であることがわかりました。また、慢性腎不全患者では水分の摂取制限が必要であるため、服用に水を使わない点からもゼリー製剤は優れていました。